ご歴代の天皇は、日本古来の〝言霊〟の信仰にもとづいて、美しい言葉で、国民の幸せを祈る和歌を、詠みつづけてこられました。そのことは、今上陛下も、まったく変りません。というよりも…、今上陛下(現在の上皇陛下)も、ことのほか「宮中祭祀」にご熱心である…といわれています。
たとえば、今上陛下(現在の上皇陛下)は、平成十七年の「歳旦祭」のようすを、こうお詠みになっています。
「明け初むる 賢所の 庭の面は 雪積む中に かがり火赤し」。
歌意は、こうです。「元日の、 夜が明けはじめた賢所の庭の上には、雪が降り積もっています。まだ薄暗いせいでしょうか。その雪の上に、かがり火があかあかと映えています」。
賢所とは、宮中三殿のひとつで、アマテラス大神をお祭りしている御殿です。
元旦の朝は五時から、「四方拝」というお祭りが行われ、それにつづけて「歳旦祭」というお祭りが行われます。
この時、陛下は、宮中三殿すべてに、お出ましになられるそうです。
このお歌を拝見すると、この年のお祭りは、かなりの寒さの中で行われたことが知られます。
あのご年齢で、病をおかかえになりながら, 曜房一つないなかでのお祭りは、どれほど陛下のお体にこたえたことでしょう。しかし、そのような厳しい「祈り」のなかで、陛下の「御聖徳」は、ますます高く、ますます尊く、その輝きをましています。
平成という御代がはじまってから、今日にいたるまで、今上陛下(現在の上皇陛下)が、また皇后陛下(現在の上皇后陛下)が、国内外を問わず、何人ももちちえぬ不思議な力で、どれほど多くの人々を励ましてこられたか、今ここで語りつくすことなど、とてもできません。
しかし、その不思議な力のすべての源は、おそらく日々の、このような厳しい「祈り」とともにあるのではないか…と、私は拝察しています。
国民への励まし…といえば、去る三月十一日に起こった未會有の大震災にあたって、そのわずか五日後の十六日、陛下が、被災者や国民に向けたビデオ・メッセージを発表されたことも、その一つです。
東京大学教授の山内昌之氏は、その感動を「これほど見事なバランス感覚」に富んだ文章を、私は知らない。歴史にも長く残ることであろう。」(『産経新聞』平成二十三年三月二十四日)と記しています。
また、陛下は、そのメッセージの前日の十五日からは、皇居の「自主停電」をつづけられていたそうです。
さらに栃木県那須市の御用邸では、職員宿舎の温泉風呂を、被災者に解放されました。そのために宮内庁職員や皇宮警察の護衛官から、三千四百枚の夕オルが集められましたが、タオルの袋詰め作業には、職員とともに、秋篠宮妃殿下の紀子さま、長女の眞子さま、次女の佳子さまも参加されています。
そして、三月二十五日には、皇室の「御料牧場」でつくられた食料品を、福島県の被災者に提供されているのです。いずれも、なんと迅速な対応でしよう。
そのことを知り、「ありがたいこと…」と目頭が熱くなったのは、私だけではないと思います。けれども、せっかくの陛下のビデオ・メツセージも、テレビや新聞では、一瞬しか報道されませんでしたし、秋篠宮家の皆さま方の美談も、ほとんど伝えられていません。
それらを伝えることが、何より日本人の心を、暖め…癒し、前向きにし、ひいては復興へのおおきなちからにもなるはずなのですが…、いったい、日本の大手メディアは、何を考えているのでしょうか。
この原稿を書いている時点ででは、大震災の被害がどれほど広がるのか、まだ予断を許さない状況がつづいています。しかし、たとえ何があろうと、私たち日本人には皇室があります。
皇室が正しくつづく限り、私たち日本人は、どのような悲しみも…苦しみも、知恵と勇気をふりしぼりながら、勇ましく乗り越えてゆくことができるにるにちがいない…と、私は信じています。(つづく)