強大な相手との闘いの軌跡 打越和子(ジャーナリスト)
(「神社新報」・平成15年11月10日)
本書は、日本最強の日教組王国・三重県における、ここ数年の教育改革の記録である。
皇學館大学助教授の著者は、本来、幕末の思想史を専門とする研究者であるが、近年、果敢に反日教組の闘いを展開されていることは、ご承知の方も多いであろう。
氏が発表した教育に関する最初の論文は、平成11年6月28日付本紙に掲載された「無惨やな、神の御もとの教育界」である。それから平成15年にかけて発表した論文が年代順に配列・編集されているが、各章の最初に「この章の背景」として、その論文が発表されるに至った経緯などが説明されていて面白い。強大な組織に立ち向かう著者の闘いぶりがよくわかる。今後、各県で教育是正に取り組もうという人たちへの指針の書ともなるであろう。
氏の行動は、眼前の教育界の不正を「黙視しえない」という純粋な気持ちから出発している。そして、敵を見定め、的をしぼり、最も有効な一矢(氏の場合、それは「言論」である)を放とうと努力してきた、その軌跡がここのある。それが、見事に功を奏し、平成13年には、三教組(三重県日教組)に十億円余の不正給与返還金を支払わせるという大きな成果を収めた。
氏は、運動に協力してくれた同志への感謝をこめて、三教組をそこまで追い詰めたのは、「国への無償の愛と、それを本気で実践する勇気ある人々の心」だと書いているが、それはそのまま氏の心であったろう。
教育改革は未だ道半ば
しかし、改革は未だ道半ばである。平成15年の統一地方選では、三教組の推薦する候補者が圧勝し、その影響力の強さを実証したという。今後、国家的な教育改革がおこなわれても、三教組の支配する三重県は「治外法権」を決め込む可能性が大だが、「それは三重県の有権者の判断であるから、それはそれでいたし方のないことである」と著者は冷厳に締め括っている。これは、改革の意志の放棄ではない。私はそこに、出来る限りのことを尽くした人だけに許される、「自立しない大衆」への厳しい批判を聞く思いがした。また、歴史学者としての達観も随所に感じられ、この種の読み物には珍しく爽快な風がわたっている。