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松浦先生のコラムブログです
by matsuura_mn
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(「正論」平成27年2月号)
『英会話不要論』
著 行方昭夫 文春新書
平成の御代がはじまったころ、私は「セミリンガル」の男子高校生に出会った。「セミリンガル」とは、「一つの言語も満足に出来ない人」(津田幸男『日本語を護れ!』)である。
その高校生の場合、裕福な両親が自分たちの息子を、当時流行のバイリンガルに育てようと、アメリカと日本を往復させ、そのあげく、”ヘンな日本語”と”ヘンな英語”しか喋れなくなったのである。
悲劇的というほかない。
しかし今、どうやら文部科学省は本気で、全国の子供たちを「セミリンガル」にしようとしているらしい。
すでに昭和四十年代には「聞く・話す」を、過度に重視する「中学校学習指導要領」が発表されており、その方向性は以後も変わらず、着々と、かつ強引に進められ、ついに昨年、文科省は平成三十二年を目途に、小学校三年での英語教育の開始、五、六年での必修化を目指す、と発表した。
“日本が危ない”と、憂国の思いで立ち上がったのは、意外にも英語の専門家たちである。
一昨年、筑波大学の津田幸男氏は『日本語を護れ!』を出版し、昨年、上智大学名誉教授の渡部昇一氏は、書名もそのものズバリ『英語教育・社内公用語は百害あって一利なし』を出版している。
また今年、和歌山大学教授の江利川春雄氏は、文科省の計画を「亡国の教育政策」と断言している(「小学校3年からの『英語教育』で英語も国語もダメになる」・『週刊新潮』)。
そして、ついに東京大学名誉教授で、「英語精読の第一人者」として知られる著者も、本書で抗議の声をあげた。
著者は文科省の路線を、「無謀」、「愚劣」としつつ、こう断言する。「日本の小学生が英語を早期に学びだせば、ペラペラに喋れるようになる…などというのが、どれ程ひどい妄想であるか」と。しかし今、「中教審、政府、自民党、実業界」はその、「妄想」にとりつかれている。
それが「妄想」にすぎない、との具体的な証拠を、著者は長年の経験から、いくつも明示する。
それらを読めば、日本人の英語力の向上のため、また、日本人の知性全体のため、著者が本書を著さざるをえなかった理由も、よく理解できよう。
結局のところ著者は「外国語を学ぶ場合、母語をきちんと使える年齢になってからの方が、結局きちんとモノにできる」という、常識的な見解を示すのであるが、それにしてもなぜ文科省は、そのような常識を無視してまで、暴走をつづけるのであろう?
そう考えた時、私は、ある既視感を覚えた。
「ゆとり教育」である。“聞く・話す”偏重の英語教育の早期教育は、「ゆとり教育」か、あるいはそれ以上の「惨禍」を日本の教育界にもたらす可能性が高い。
言葉…それは、文明・文化の根幹にかかわる重大事である。わが国の「文化防衛」のため、本書が広く読まれることを、願ってやまない。 (おわり)
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