(「神社新報」 平成21年4月13日 )
平易に解説する維新の道と精神 神社本庁録事・三井紳作
『南洲翁遺訓』は、西郷隆盛の死後、菅実秀など西郷に大恩を受けた旧庄内藩士らが、西郷が生前に残した珠玉の言葉を集めて編纂した、明治における求道者の修養の書である。
この書の価値は、その後、数え切れないほどの複製本や解説本が、現代に至るまで出版され続けていることからも、容易に推し量ることができよう。
本書『【新訳】南洲翁遺訓-西郷隆盛が遺した「敬天愛人」の教え』は、松浦光修、皇學館大学文学部教授が、四十三条(追加二条を含む)からなる『南洲翁遺訓』の原文を、「政治の教え」「時代の教え」「事業の教え」「人生の教え」の四章に再編集し、現代人に分かりやすく平易な言葉で新たに訳したものである。
さらに今の時代に即した解説を、「余話」という形で加えることにより、西郷隆盛を現代に蘇らせることに成功している。
副題にある「敬天愛人」は西郷の代表的な言葉であるが、本書では「…つまり“自分にとらわれない”という意識を、もちつづけるようにすることだよ(抜粋)」と、かくも平易に解説されている。
また、「余話」では、
「かれはみずからが功業を立てた維新に満足しなかった。かれは維新勝利の前の理想を、すこしも低俗化することなく、むしろいよいよ高めて『永遠なる維新の道』を進みつづけた」
という葦津珍彦の文章をはじめ、さまざまな引用や足跡を紹介しながら、考察や解説を加えるとともに、「敬天愛人」の持つ意味についてもさらなる視点を与え、西郷が残した言葉の行間へと読み手を誘う。
そもそも『南洲翁遺訓』は、旧庄内藩士とのふれあいの中から生まれた「談話記録」である。本書では人と人が対峙したなかで紡ぎ出された言葉を、細心の注意を払いながら口語調で訳すことにより、西郷の優しさと心遣いまでも伝えている。
そして、西郷と現代を生きる我々とをいかにして結ぶかという、編訳者・松浦氏の優しさと心遣いは、青少年の道徳意識低下が叫ばれる今日、青少年の心に十分及ぶことだろう。
その意味では、本書は青少年にこそ、読んで欲しい書の一つである。
西郷隆盛の強靭かつ高潔な武士道精神から遺された言葉の数々は、これまで多くのリーダーがその規範としてきたものである。混迷の度を深める現代にあっても、珠玉の言葉は決して色あせることはない。
西郷が指し示す「天の心」は、本書を通じて求める人々の前途に、光明を指し示してくれることであろう。